ガラスの棺 第18話 |
ピッピー ピッピー ピッピー 突然、聞き慣れない警報が室内に響き渡った。 耳障りなそれは、特定の関係者からの緊急メッセージ。 音がなると同時に、ロイドとセシル、ニーナは顔色を変えた。 「どうやら、この場所がバレたみたいですねぇ」 すぐに警報を止め、発信源を調べたロイドは成程と頷いた。 発信先を確認すると表示名はQ1。 Q1で示す人物は唯一人、カレンだけだ。 緊急時に携帯で特定の番号へ電話を入れると、ここの警報が鳴るように仕掛けをしていたのだ。通話をする必要はなく、ワンコールでできる緊急連絡。そして彼女が通話ではなく緊急警報を鳴らす理由は、現段階では一つしか考えられなかった。 「セシル君、ニーナ君。データのバックアップは?」 「今朝取りました」 「大丈夫です先生」 二人の反応を確認した後、ロイドはウイルスを流した。 これでこの施設のデータは全て消去されるルルーシュの遺体に関するデータも全て。 「騎士団が動くかもしれませんね」 カレンが得られる重大な情報と言えば、カグヤ絡みだろう。 日本の軍隊や警察を動かすより、彼女なら黒の騎士団を私物化し動かすだろうというロイドの予想に、スザクは眉を寄せた。 あってはならない事だが、今の状態なら十分あり得る流れだ。 ルルーシュの棺用に誂えた保護カバーを手にしたジェレミアは、呆れたように言った。 「流石にそれはありえないだろう。黒の騎士団は超合衆国の議決がなければ動かせないのだからな」 私兵を動かす可能性はあっても、黒の騎士団は動かないだろうとジェレミアは否定したが、スザクは首を横に振った。 「本来はそうですが、ゼロの監視が効かなくなった頃から、自国に配備された騎士団を私物化している代表はいました。現にカグヤもカレンを自分の護衛のように使っているじゃないですか」 アレも本来あってはいけない事なんです。 カレンはあくまでも黒の騎士団の零番隊隊長。 隊長クラスの人間を、一人の議長の護衛につかせる事はない。 それも、ゼロの親衛隊と呼ばれる零番隊の人間を使うなどあり得ない。 彼女が護衛すべきはゼロであってカグヤでは無いのだから。 スザクが棺を持ち上げ、底にカバーを敷いていたジェレミアは、まさかそんな事になっているとはと眉を寄せた。 ジェレミアはゼロレクイエムの後軍から手を引き隠居生活を送っていた。 新聞やニュースだけでは、黒の騎士団の私物化を知る事は出来ない。 「みんな、ジェレミアみたいに真面目じゃない」 ジェレミアを手伝っていたアーニャは当然の成り行きだと言った。 「だがしかし、国の代表となる人物が・・・」 「みんなルルーシュのような人間じゃない。自分たちの利益が優先」 自分より他人になんて、普通できないし、やらない。 まずは自分。 そして自国。 余裕が出来たら他国。 でも今は、余裕が出来ても自分。 あるいは自国。 だからこんなことになったのだと、アーニャは達観したかのように言った。 私が私に私のために。 そんな声しかあの場所では聞けない事をまるで知っているようだった。 「それより皆さん、自分の荷物は大丈夫ですか?」 ここにいる者たちは自分よりルルーシュという考え方だ。 ルルーシュの方にばかり目が行って、自分の荷物を忘れかねない。 セシルは緊急用に用意していた自分の荷物を引っ張り出して尋ねた。 「はい、僕はそこにあります」 「私たちのもそこ。すぐ逃げれる」 見ると、三人分の荷物がまとめられていた。 「あ、あの。どうやって逃げるんですかここから?」 ニーナがオロオロと青ざめた顔で言うので、それは大丈夫だよとロイドは言った。 「この警報、シュナイゼルにも届いてるから」 「え?」 「すぐに来るよ。こうなる事は解ってたからね」 もう時間がないから、こちらもなりふり構ってはいられない。 だから、今はここを出る準備だけ考えればいいよ。 その言葉通り、30分と経たずに日本のアッシュフォード学園上空に本来あってはならないブリタニア製の旗艦が姿をあらわした。 青空の下に堂々とした姿で存在するそれは製造さえ秘匿された旗艦。 それが今、人の目に触れたのだ。 これでもう引き返す道はない。 これは日本への、いや、超合衆国への宣戦布告。 新生アヴァロンの艦橋に立つシュナイゼルは、待っていたよとでも言いたげに、目を細めこちらを見降ろしている。警報が鳴ってからこの速さで来たということは、こうなると踏んでブリタニアを発ち、日本の近海ででも待機していたのだろう。 いつでも王を迎えられるように。 敷地内に降り立つスペースはないため、KMFが2騎地上に降り立った。 『さ、まずはロイドたちよ』 そのうちの1騎、カノンが操縦するKMFが手にしていた屋根の無いコンテナに、ロイドとセシル、ニーナの三人はそれに乗り込んだ。 それを確認すると、カノンは地上を離れアヴァロンに向かった。 そしてもう1騎。 こちらは見覚えのある機体で、どうしてここに?とスザクはその機体を睨みつけた。 『・・・話はあとだスザク。棺と一緒に全員乗り込んでくれないか』 その機体は先ほどより大きなコンテナを抱えていて、それを地面に音もなく下ろした。警戒してもし足りない相手だが、シュナイゼルが駒として認めたのだから、今は信じる他にない。 「・・・わかった。ジェレミア卿、アーニャ」 念のためゼロの仮面と衣装を纏っているスザクは、棺をジェレミアと共に担ぎあげた。 三人分の荷物を持つアーニャが先導し、コンテナへ移動する。 しっかりと入口を施錠すると、アーニャはKMFを見上げた。 「ジノ、安全運転」 『解ってるって』 懐かしい声は、あの頃と変わらない明るい声で言った。 その時、猛スピードで敷地内を走ってくる車両が目に入り、全員が警戒姿勢を取った。だが、その乗り物に乗る人物が判別できるようになると、全員唖然とした。 『ストーーーーーップ!貴方たち!ちょっと待ちなさい!』 拡声器で叫ぶその声は、良く知った女性の物で。 彼女、いや、彼女たちの乗り物も、とても懐かしい・・・バイクだった。猛スピードで近づくバイクを運転していたのは当然リヴァル。 バイクが停止するとミレイはすぐにサイドカーから降りた。 その手にはマイクが握られている。 すかさずバイクから降りたリヴァルは、積んでいたテレビカメラを担ぎあげた。 そうだ、ミレイはニュースキャスターで、リヴァルはその助手だったのだ。 それにしても、この速さ。 アーニャが来てからは、万全の事を考えクラブハウスへは来るなと言っていたが、二人は学園内のどこかでずっとこの時を待っていたにちがいない。 リヴァルが合図を出すと、ミレイは明るい声で話しだした。 「皆さん、こんにちは。ミレイ・アッシュフォードです。私はアッシュフォード学園の敷地内におります。見てください、ここには今あのゼロと、もとナイトオブラウンズ・ナイトオブシックス、そしてナイトオブスリーが姿を現しました!」 何だこれは? そう考えている間にアーニャは素早く端末を操作し、スザクのゼロ服の裾を引っ張った。見せられた画面にはテレビ中継と緊急ニュースの文字が躍っており、現在この放送がリアルタイムで報道されている事がわかった。 何でこんな事を?と困惑している間に、騒ぎに気付いたカノンが再び地上に降りてきた。二人をけん制するよう動くカノンだが、そんな事など関係ないと、ミレイとリヴァルはゼロたちのいる方へ歩みを進めた。彼女は聡明だ。その彼女が意図をもって動いている以上止める術はなく、全員がミレイの言動に意識を向けていた。 本来であれば一分一秒でも早く離れたいのだが、シュナイゼルもミレイの言動が気になるらしく、カノンとジノに帰還命令を出さなかった。 「見てください。ゼロたちが今運んでいるものは何でしょうか。大きな入れ物のようにも見えます」 当然、ミレイはそれが何かを知っている。 美しい装飾が成された深い紫色のカバーが何を包んでいるのかを。 リヴァルはカメラでコンテナの中を撮影し、その箱を映像に残していく。すると、それまでの明るい声から一転し、静かで落ち着いた声と表情でミレイは話し始めた。 「みなさん、私が以前投げかけた疑問の答えは出たでしょうか?そう、二代目が枢木スザクだとするなら、初代のゼロとは誰だったのか。なぜ主の仇である先代ゼロの意思を彼が引き継いだのか、なぜゼロと元ラウンズ、そして元皇族であられるシュナイゼル様が今こんな危険を冒してまで動いているのか。聡明な方ならば、もうこの中身に気付いているかもしれませんね」 カメラは棺からミレイに移る。 「そこで新たな疑問が出ます。仮にこの中身が皆さんの考え通りのものならば、敵対関係であった彼らがこうして丁重に運び出すのはおかしな話なのです」 カメラは後方に下がり、カメラの底に付けられていた三脚が開かれその場に固定された。リヴァルは位置を合わせた後バイクへと駆け戻って行く。 「では、どうしてこのような事が起きるのでしょうか。私が言える事は、あの時、間違いなく彼らは敵であり、戦争を、殺し合いをしていたと言う事です。その彼らがなぜ、今こうして手を取り合って、この箱を守ろうとするのでしょうか。・・・その答えは難しい様で、実は簡単なのです」 リヴァルがバイクを持ってくると、「ちょっとそこ退いてくれ」と、コンテナの奥へ全員入るよう促した。そして無理やりバイクを積み込む。 「皆さん、考えてください。ゼロは英雄と呼ばれる以前から奇跡の体現と呼ばれています。では、初代から二代目に変わることによりこの世界に起きた奇跡とは何だったのでしょうか。全ての答えはそこにあります」 真剣な声から一転しミレイはニッコリと笑顔をカメラに向けた。 「局長、長い間お世話になりましたが、私は今を持って退職いたします!カメラここに置いていきますので回収お願いしますね。あ、これからの事はこの、私物のこちらのカメラで録画していきますので、内容に興味があるようでしたら連絡くださいね~」 手を振りながらミレイが構えたのは、家庭用のビデオカメラ。 するとリヴァルもひょっこり顔を出して頭を下げた。 「局長すみません。俺も退職します!」 「と、いうことで。もういいわよジノ君、行きましょう!」 『え!?ミレイ達も来るのか!?』 聞いてないぞ! ジノはようやく現状を理解し声をあげた。 それはそうだ。ゼロであるスザクも含め、全員あまりの内容に驚いて黙って見ていたが、ミレイ達が来るのは聞いてないし認めてない。 「そーよ。私たちをまーた除け者にする気だったの!?だめよ~今回はきっちりと巻き込まれますからね!ってか連れてけ。連れてかないならあることないこと、それこそ学生時代の恥ずかしい事もぜーんぶ喋っちゃうわよ!」 「そうだそうだ!連れてけよ!」 この二人はルルーシュの大事な友人だからこそ、蚊帳の外にと思ったのだが、本人たちはそれでは嫌だと騒ぎだした。 こうなったら仕方がない。 予定より重くなったため、カノンとジノの2騎のKMFでコンテナを支えながら、新生アヴァロンへと戻って行った。 ゼロ側の船は1隻だけしかないけど旗艦。 |